金門島周辺は、東アジアの冷戦(熱戦)、中華人民共和国と中華民国(台湾)の対立の最前線であった。だが、世界的な冷戦の崩壊、地域的緊張緩和につれ、軍事最前線としての性格を次第に喪失し、現在ではむしろ中国と台湾の交流の最前線となりつつある。またこめ過程で、観光に頼る典型的離島経済の様相を示しながらも、かつての僑郷(華僑の輩出地)としての歴史も取り戻し、中国とも台湾とも異なるアイデンティティを形成しつつある。このような金門島の実情をふまえ、この一年には地域研究コンソーシアムの『地域研究』(11-1、2011年3月)に金門島研究特集を掲載すべく、国立金門大学の江柏〓教授、ハーバード大学のSzonyi教授と連携して、それぞれ論文を執筆し、また7月に東京の学士会館で陳来幸教授、貴志俊彦教授と金門島研究の意義と可能性に関する座談会を開催した。これらの成果は、いずれも同誌に盛り込まれ、金門島の紹介なども含め、年度内に刊行できた。 また、2011年2月には国立金門大学の研究者らを招聘し、金門研究者が多く集う神戸において、彼らへの聞き取り調査とともに、「金門島研究め現在-僑郷・軍事・両岸-」と題したワークショップを開催し、多くの参加者を得た。調査団は長崎にも赴き、金門出身者に聞き取り調査をおこなった。この成果は本科研に還元される。 なお、2011年度には金門島および台湾にて大型の会議が予定されており、そこにての成果報告が予定され、また必要に応じて金門や東南アジアでも調査をおこなう予定である。
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