本研究の目的は、一国内で複数通貨が並行流通する競合通貨制に関して、現金通貨流通量を計測した上で実証分析を行うことである。調査は、自国通貨Kip・タイバーツ・米ドルの三通貨が並行流通しているラオス人民民主共和国において実施した。 初年度(H.22)の予備調査の結果、ラオス中央銀行が2008年度以降繰り広げた自国通貨使用奨励キャンペーンのため、個人・企業ともに外貨使用に関する質問に対して拒絶や虚偽の回答を示す頻度が極めて高いことが分かった。そこで家計と企業を対象とした聞き取り調査を断念し、商店の受け取り(使用)通貨調査に的を絞った。調査員が、市場と街中の主要な通りでランダムに選択した商店を訪問し、店内で代表的と思われる商品の価格を尋ね、商店の言い値と他通貨での支払いの可否に関する回答を記録する方式である。調査であることが回答者に知られないため、バイアスの低い正確なデータを収集できると考えた。各通貨の現金通貨流通量は、例えばタイバーツでの支払いに関する諾否回答の比率から推定できる。 2011年2月28日から3月26日にかけて、研究代表者と現地研究協力者が手分けして、ラオス全17県で第一回目の調査を実施した。全土で1万件の回答収集を目指したが、首都ビエンチャン以外では商店自体の数が少ないこともあり、全体で7451件のデータとなった。続いて2013年3月8日から28日にかけて、同じくラオス全17県を対象とした第2回目の商店受け取り通貨調査を実施した。二回実施した理由は、1) 約2年間のマクロ条件の変化が使用通貨選択に与えた影響を調べるため、2) 都市地区ごとの擬似パネルデータを作成し、調査地固有の効果をできるだけ取り除くため、の二点である。第二回調査では、サンプル数を前回調査の3分の2以下とした。地方都市で商店が少ないことに対応した変更である。データの分析を今後進める。
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