平成23年度においては、近世における通貨構造に関する論考を発表し、その中で当地で流通していた藩札に印刷された中国古典の詩文に言及した。試論の域を出ないが、この種の研究は専攻研究にはないと思われる。 ほかにロンドンの大英博物館に所蔵されている日本近世紙幣コレクション(江戸時代の藩札や私札、明治初期の太政官札などからなる)調査・整理等に注力した。同館に日本古紙幣を専門とする学芸員が不在であり、そのためコレクションの整理・分析・成果発表まで手が回らないようである。こうした現状の下、申請者はまずは整理作業に協力することになった。同館の学芸員からの協力を仰ぎつつ、現在、整理作業を進めているところである。整理作業が終了した後は、将来的には同館のコレクションに基づいたカタログ(英語版)を出版し、研究成果の海外への発信に寄与する予定である。 日本古紙幣の図像分析には篆文(篆書体で記された券面上の文言)と加印(印刷後に様々な目的をもって適宜付された印章)の理解が欠かせない。前者については、古文書で用いられている通常の「崩し字」とはかなり形状が異なるため、新たにゼロから修得する必要がある。また後者については、従来のいわゆる目録類においては見過ごされることも少なくなく、十分情報化されてこなかった。こうした諸情報の判読・把握の経験を積むためには目録作りが適切と考えている。なお、同館調査の折にケンブリッジ大学にも日本古紙幣コレクションが所蔵されていることが判明しており、大英博物館目録作成の経験をさらに活かす方向で考えている。 大英博物館所蔵古紙幣の分析については、日本近世の図像分析の専門家(ロンドン在住、外国人)の協力を得る見通しがつき、一部古紙幣に関して意見交換を進めている。また、同人は日本語だけでなく、英語も堪能であり、将来の英語版カタログ刊行に際しても、原稿の英訳での協力が期待できる。
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