財務報告の目的とされる経済社会における情報提供機能と利害調整機能は、対立するまたは全く異質な機能として捉えられるのが一般的である。本研究の基本的なアイデアは、ミクロ経済学における「競争的配分」に関して、(1)需給の価格調整機構の存在を前提にして競争的配分がもたらされるとする「ワルラス的見方」と(2)価格機構の存在を前提とせず、取引当事者間での自発的交換によって競争的配分が達成されるとする「エッジワース的見方」が、上記の財務報告の2つの目的ないし機能にそれぞれ相応したものではないか、そうであれば、ミクロ経済学における「競争的分」の2つの見方を、会計学の観点から解釈し直すことにより、財務報告の2つの目的ないし機能を、これまでの議論とは全く異なる形で、分析することができるのではないか、というものである。 ミクロ経済学におけるこのような「競争的配分」の議論を、今後、会計学の観点から解釈し直すために、可能な限り正確に理解するというのが、主要な本年度の研究であった。そのため、まずは基礎的な一般均衡理論に関する文献を順次読了し一般均衡論の基礎を理解しようと努めるとともに、会計学からいえば、価格の存在を仮定せずまずは企業利益の働きに注目することになることから、価格機構の存在を前提としない「ワルラス的見方」を中心に理解を深めた。その結果、「交換経済」の場合には、「エッジワース・ボックス」における経済主体の効用を利益とみなすことができると考え、またそのための条件を検討した。次いで「生産を伴う経済」において、どのような解釈のし直しが可能であるのか、現在検討中である。なお、これらの、一般均衡理論に慣れること、「交換経済」および「生産を伴う経済」における会計学の立場からの競争的配分の議論の解釈のし直しの作業は、今後、実験研究を担当予定の研究分担者の上枝とともに行っている。
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