研究課題/領域番号 |
22653052
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高尾 裕二 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (60121886)
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研究分担者 |
上枝 正幸 青山学院大学, 経営学部, 准教授 (20367684)
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キーワード | 財務報告の目的 / エッジワース的見方 / 会計情報の資源配分機能 |
研究概要 |
本研究の目的は、一般的に、経済社会における財務報告ないし会計情報の機能・役割として、対立的に捉えられることの多い、「情報提供機能」と「利害調整機能」を、ミクロ経済学における「資源配分」の分析枠組みを参照することにとって、可能な限り、統一的に捉えることのできる会計情報の機能・役割に関する分析的枠組みを開発・提示し、「情報提供機能」と「利害調整機能」を、この統一的な分析枠組みのもとで比較対照することにより、これまでとは異なる観点から、2つの機能の異同を明らかにすることである。 本年度の研究実施計画では、ミクロ経済学における資源配分の「エッジワース的見方」を踏まえて、2人・1財の取引を前提に、取引が有限回繰り返される生産物の取引(つまり、純粋交換経済ではなく生産経済を前提とする取引)について、エッジワース的見方における取引者の効用を、企業の利益と読み替え、協力ゲームにおけるコアの議論を踏まえて、エッジワース的見方の展開を図ることであった。 本年度におけるいろいろな試行・工夫の過程で、単に、取引者の効用を、取引企業の利益と読み替えるだけではなく、さらに、企業の投資を組み込むことが、「情報提供機能」と「利害調整機能」の統一的な分析枠組みの開発・提示に有効であることが、次第に明らかになったことから、会計の基本機能として従来から指摘される「情報提供機能」と「利害調整機能」に加えて、新たに最適な企業投資に資するという「資源配分機能」を思いつき、この「資源配分機能」の経済的意味を検討するとともに、「資源配分機能」の観点から、「情報提供機能」と「利害調整機能」の関係の分析を開殆した。 さらに、会計情報が(投融資を含む)企業とその利害関係者の実体的な意思決定にどのように影響するかの理論・実証研究をサーベイするとともに、会計の環境にある個々人がどのような信念をもち行動をとるかの全般的な理解のため、当該分野の代表的な文献を訳出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミクロ経済学における「資源配分」の議論について、価格調整を前提とした「ワルラス的見方」に対して、価格調整を前提としない「エッジワース的見方」(ここでは、市場価格の存在を前提とせず、企業利益という会計的シグナルが価格の代わりをする経済を想定することが可能)を直接的に対比しようと試みてきたが、その過程で、企業投資に資する会計情報という新たな財務報告の目的に気づき、この「会計情報のリアルな資源配分機能」から、改めて、「情報提供機能」と「利害調整機能」の融合を検討中であることによる。 なお、会計情報の機能を広範に分析する場合、それぞれの利害関係者が複数の経済的動機(たとえば、複数の他の利害関係者ごと、または短期と長期など)を有し、また多数の関係者の同時的意思決定を伴うことになる。したがって、実証可能な命題の導出および実証の方法(特に、本研究では経済実験のデザイン)を慎重に検討しなければならない。
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今後の研究の推進方策 |
「情報提供機能」と「利害調整機能」という、これまで対立的に捉えられてきた財務報告の目的なり、会計情報の機能について、新たに、企業投資目的に資するという「資源配分機能」の存在を指摘し、その経済社会における意義をさらに分析するとともに、この「資源配分機能」を中核にすえ、従来の「情報提供機能」と「利害調整機能」との同時的分析を行う予定である。 上記の理論的な分析とともに、その実証研究の実施も本研究の重要な課題である。関連する文献を適宜参照しつつ、われわれなりの実証命題を設定し、実証研究(特に、実験経済学の手法によるもの)を実施したい。なお、理論の同時的分析を直接に実証することは現段階では困難であるから、最重要ないし必須のパートを抽出した実験デザインが必要である。
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