研究概要 |
財務報告の機能なり目的については、従来より、投資者の証券投資意思決定に役立つとする「情報提供機能」と経営者とステークホルダーとの円滑な事業遂行に向けた「利害調整機能」の二つが対立的に捉えられるのが一般的である。しかし、例えば、会計利益の役割について、一つの会計利益数値が、両者の機能をかなりの程度同時に果たしているとの指摘が近時みられるようになった(例えば、Bushman et al.,2006)。本研究は、このような議論に触発され、ミクロ経済学にいう「競争的配分」の議論における、①「ワルラス的見方」(需給調整のための価格機構の存在をまずは仮定し、価格調整の結果として最適配分がもたらされるとする見方-「情報提供機能」に対応)と②「エッジワース的見方」(価格機構の存在を前提とせず、取引当事者間での自発的交換によって最適資源配分がもたらされるとする見方-「利害調整機能」に対応)を参照することにより、財務報告の機能なり目的に改めて光を当て、新たな解釈を得ようとするものであった。研究分担者の上枝氏と分担領域を調節しつつ、上記の「競争的配分」の議論、特に「生産を伴う経済」の次元での議論を渉猟し、また一般均衡分析、特に「情報非対称性の存在を仮定した一般均衡論」について理解を深める方向で作業が進展した。このような研究過程において、会計情報の核である利益は、利害調整機能と情報提供機能の両者をもとより同時に果たしているとの分析枠組みを構築・展開することにより、財務報告の究極の目的は、企業の(設備)投資意思決定(資源配分機能)に役立つことにあり、利害調整機能と情報提供機能は、この資源配分機能の下位目的として統合・融合して理解することができる、との結論・成果を得ることができた。
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