(1)平成22年度の研究は、わが国の上場企業において過去6年間に発生した「不正な財務報告」を調査し、監査人がこうした不正な財務報告を看過した理由の1つに「職業的懐疑心」を捉えるとともに、この概念が監査文献においてどのように扱われてきたかを研究した。これまでの監査研究では、もっぱら監査人の「疑う心」に焦点が当てられてきたが、本研究は、監査上の懐疑主義なる概念は、「監査人の疑う心」と「監査人が従事する認識のあり方(監査認識の枠組み)」の二つから構成されるハイブリッド概念であることを明らかにするとともに、前者の研究には心理学との交流、後者の研究には哲学との交流が不可欠であることを、論文「監査の失敗と監査上の懐疑主義」なる論文を通じて明らかにした。 (2)職業的懐疑心が具体的な監査事例において十分に発揮されなかった事例を確かめるため、加ト吉の粉飾決算を手掛りに、研究発表(平成22年12月25日)と関連のシンポジューム(平成22年12月16日)を開催した。なお、この研究結果は論文「循環取引による加ト吉粉飾決算事件」(上・下)において発表した。 (3)シンガポールのNanyang Technological Universityで開催されたInternational Symposium on Audit Research(2010年6月)とアメリカのイリノイ大学において開催されたAudit Symposiumに参加し、とりわけ懐疑主義に関する最近の研究動向を把握した。懐疑主義を"inward"と"outward"に分けて考える立場があり、これを上記の論文((1))に反映し、自分が行っている監査上の懐疑主義の概念的枠組みを修正・強化することができた。 (4)最後に、現在進行中である作業は、(1)の論文の内容を英文化である.また、(1)に続く、邦文による研究論文もすでに出版社に手渡しており、2011年度には業績の形で結実する。
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