平成24年度の研究は、平成24年6月16日に早稲田大学において開催されたInternational Symposium on Audit Researchにおけるplenary sessionでの発表の下準備としての論文の作成であった。このシンポジュームにおいて、監査上の懐疑主義の概念的枠組みを捉える構図として、監査人は財務諸表の適正表示をいかにして立証するのかという視点と監査人はいかなる水準の懐疑心を働かせて財務諸表監査に臨むのかという視点の2つを示し、両方の視点が交差する構図の中で監査人の職業的懐疑心を捉えるというアプローチを明らかにした。 前者は「監査人はどのようにして疑うのか」を問題とし、具体的にはアサーションの設定(assertion framing)に関係している。これに関して実証主義(confirmation)と反証主義(falsification)を識別した。後者は「監査人はどの程度疑うのか」を問題とし、具体的には懐疑心の水準に関係している。これに関して、すでに監査文献において識別されている立場──すなわちneutrality viewとpresumptive doubt view──を明らかにした。 以上のような構図を具体的に示すことによって、職業的懐疑心について異なる4つの水準があることを識別するとともに、各水準が監査手続にいかなる意味を有するのかについての検討結果を明らかした。この作業のプロセスは上記のシンポジュームでの発表やそのために作成した論文を通じて明らかにされたと考えている。しかし、シンポジュームにおいて、参加者から新たな問題が指摘されるにいたった。負のアサーションを想定することは、財務諸表監査を結果として不正探索型の監査に変質させることになるのではないかという問題である。ここに、再度の検討が必要となった。
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