監査上の基礎概念の1つでありながら、また、監査人の認識のあり方や監査の質に重要な意味を持つ概念でありながら、監査上の懐疑主義(監査人の職業的懐疑心 : professional skepticism in auditing)はこれまで学問的な対象となっていなかった、否むしろ、概念的な準備が十分になされる前に、実証研究が開始されてしまったともいえる。監査研究者において共有できる監査上の定義がないことは多く認識されている。今回の研究は、このことを基本的な問題意識としたうえで、財務諸表監査における懐疑主義の概念的枠組みを提示することを目的にしている。これまでの捉え方は監査人の心理的側面にもっぱら偏っていたこと、これに、認識学的側面を追加する必要にあることを主張し、その両面から監査上の懐疑主義の概念的枠組みを規定した。そして、その枠組みを使って、監査人の職業的懐疑心の水準を捉える異なる立場が4つ存在することを説明した。従来の監査上の懐疑心を捉える視点が十分でなかったことなど、これまでのこの分野では見られない新しい学問的な主張を行った。
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