平成22年度には、主に酒類製造業に着目して、伝統的専門職者の就業環境の変化、および伝統的専門職従事者の入職経路、入職後の職業経歴などについての検討を行った。本研究で伝統的専門職と呼ぶのは、職業分類上では技能職に分類される職種であり、その多くは世襲や徒弟制などによって選抜や教育が行われ、学校教育や職業資格制度の発展とは無関係にその養成システムが構築されてきた。しかし、それらの職業を取り巻く環境は大きく変化しつつあり、伝統的専門職者の就業状況にも影響が現れている。これらの職に従事する者、また彼らを雇用する立場にある経営者に対する聴き取り調査から得られた知見は以下の通りである。 酒類製造業の技能職のうち、杜氏等日本酒の醸造に携わる者については、かつては農水産業従事者による冬期間の出稼ぎという形態での就業が多かったが、一部では通年雇用の常勤社員化が進みつつある。この背景には、伝統的に酒造関係者を輩出してきた地域においても常勤での被雇用者が増加していること、伝統的な就業形態が就業者確保の阻害要因となっていること、製造工程の機械化等によって通年での醸造が可能となっていることなどがあげられる。経営者側にとっては、通年雇用による人件費拡大は避けられないものの、酒造に関わる人的、技術的資源を社内に確保することができるという理由から社員化が選択されている場合が多い。少数の社員に季節労働者を加え製造にあたっている企業もある一方で、製造部門をすべて社員化している企業もある。雇用形態の変化により、高等教育卒業者の就職も増加しつつあるが、業務に必要な知識・スキルのうち、経験を通じて個人の内部に蓄積される性格が強いものが多いこと、肉体労働を含む多様な業務を行うことが求められることなどが問題として認識されている。
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