平成24年度は、これまでの調査に引き続き主に酒類製造業に着目して、伝統的専門職者の就業環境の変化、および伝統的専門職従事者の入職経路、入職後の職業経歴などについての検討を行った。本研究で伝統的専門職と呼ぶのは、職業分類上では技能職に分類される職種であり、その多くは世襲や徒弟制などによって選抜や教育が行われ、学校教育や職業資格制度の発展とは無関係にその養成システムが構築されてきた。しかし、それらの職業を取り巻く環境は大きく変化しつつあり、これまでの調査研究から得られた知見に基づき、丹波杜氏を事例として、以下の点が明らかとなった。 同業者団体である杜氏組合は人材の確保や就業先の調整、労働条件の改善、技術の継承や発展のための活動を続けてきた。一方、酒造会社では機械化を進めるとともに、製造工程に従事する者を正社員として通年で雇用するようになった。そうした正社員の多くは高学歴者であり、彼らによって経験と勘によって保持されてきた技術を科学的知と融合させることにより醸造技術を社内に保有し、それをさらに発展させていくことが可能になった。 この正社員化の動きは杜氏組合が目指してきた待遇改善の理想型のひとつであるが、その要求を実現させていく過程は、組合内部でのヒトとワザの循環における機能不全を深刻化させるとともに、組合自体の存在意義を失わせるという自己矛盾に直面することにつながるプロセスともなっている。 本研究ではこれらの知見を基盤としながら、さらに普遍的な課題や特質を抽出することを目的として継続を図りたいと考えている。
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