失語症者は話を聞いて内容を理解することに困難があるが、話の要旨が文字で提示されれば、内容理解が促進される。こうした文字提示による話の理解の補助は「要約筆記通訳」と呼ばれ、主として聴覚障害者を対象とした活動が行われてきた。聴覚障害と失語症では障害の性質が違うため、どのような内容の文字情報を提示するのが効果的であるかは異なる。本研究は、失語症者に適した要約筆記の方法を明らかにすることを目的とする。昨年度に引き続き、失語症のグループ訓練における要約筆記場面の録画から作成した書きおこし記録を元に、失語症者向けの要約筆記技術の特徴を検討した。その結果、情報の選択(主要な情報を中心に提示)、単語の多用(文として話されたことを単語化して提示)、文構造の簡略化、記号の利用(矢印で時間経過・順序・因果関係を表すなど)、空間配置の利用(言語的に表現された内容を、文字を書く位置や表形式を用いて表すなど)、図の利用(言語的に表現された内容を図やイラストで表記)といった特徴が認められた。筆記者は、話を聞きながら、こうした技術を利用して瞬時に話の内容を要約し、文字を中心とした視覚情報を失語症者にわかりやすく提示していた。今年度は、さらに、こうした技術を普及させる手段とすることを目的に、失語症者の介助者や支援ボランティアなどを対象とした要約筆記技術習得のための冊子を作成した。冊子の内容は、失語症の聴理解障害・読解障害の特徴を理解したうえで、上記の要約筆記技術の特徴を、(1)単語中心で書く、(2)分かち書きで書く、(3)漢字単語中心で書く、(4)文字の配置を工夫する、(5)記号を使う、(6)図や絵を使う、に分けて理解・習得できるものとした。こうした技術を普及させることで、失語症者のコミュニケーションの困難を減らし、福祉向上に貢献することができると考えられた。
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