現在、入院病児の保育を目的とした院内病児保育所が着実に増えつつあり、病児の身体的なケアのみならず心の育ちに対しても関心が高まってきている。しかし、そこでの保育は多くの場合、少数の保育スタッフによって手探りで進められているというのが実状であり、明確な理論的方針に基づいたものとは言い難い。特に本来、最も重要なアタッチメント形成期たる乳幼児期に病気等によって養育者との分離にさらされた子どもに対して、保育士が医師や看護師らといかに連携を図りながらそのケアをなし得るのかということをめぐる現場の混乱は著しく、その確かな指針となる理論や実践的方法論が求められている。本研究はそうした理論や方法論の模索を目指したものである。現在も、院内保育所におけるフィールド・ワークを継続中であり、そのデータの分析や知見の整理とともに、次なるリサーチクエスチョンを模索しているところであるが、これまでに見えつつあることは、病児に対して関わる複数の大人(医師、看護師、保育士、臨床心理士、保護者、ボランティア等)「個々」に関して言えば、病児との関係性の構築およびアタッチメント形成への配慮が十分に認められるということである。しかしながら、その一方で、病児が成育する病院という生活環境「全体」に目を転じた時には、複数の大人の間における、子どものケアや子どもとのアタッチメント形成のあり方に関して、必ずしも明確な合意形成がなされておらず、結果的に子どもが、特にネガティヴな情動を経験した折に、誰に対していかにアタッチメント・シグナルを送り得るかということにおいて混乱が見られるということである。すなわち、大人個々の子どものケアに対する高い意識や動機づけが、全体としてうまく機能的に結集されていないということであり、今後はそれぞれの子どもを取り巻くアタシチメント・ネットワークの構築が喫緊の課題であることが浮き彫りになったと言える。
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