現在、医学や医療技術の飛躍的な進展により、先天性心疾患などの重篤な疾病を抱えた子どもに対する治療が大幅に改善され、そうした子どもたちが、完全にあるいは部分的に自身の疾病を克服し、長期的に生存するケースの割合がきわめて高くなってきている。しかし、その一方で、指摘されていることは、そうした子どもたちが、幼少期に長期的な入院を強いられた際の、身体面以外におけるケア、特に心理社会的側面に対するケアに相対的に困難を抱える事例が少なくないということである。そして、そうした現状認識の中で、病院内における病児に対する保育のあり方が問われてきている。特に本来、最も重要なアタッチメント形成期たる乳幼児期に病気等によって養育者との分離にさらされた子どもに対して、保育士が医師や看護師らといかに連携を図りながらそのケアをなし得るのかということをめぐる現場の混乱は著しく、その確かな指針となる理論や実践的方法論が求められている。今年度は、院内保育所におけるフィールド・ワークを継続的に行うとともに、先天的小児疾患により幼少期から児童期を病棟で過ごし、現在、成人期に至っている研究協力者に対して面接調査を行った。病院内におけるスタッフとの関わりや養育者等とのアタッチメントのあり方には、疾病やその重篤度および病院の方針や構造等によって広汎な差異があることが認められたが、幼少時の長期入院体験者には、概して、自身の今後の生活やライフコースに対する将来展望が希薄である特徴が認められ、殊に幼少期に心理的な自律性発達を支え促すという視座が病院および子どもの養育環境全体においてきわめて乏しい可能性が示唆された。生活が病気治療中心にならざるを得ず、遊びが極端に制約されることはやむを得ないことと言えるが、その限られた可能性の中で、子どもの自発的探索をいかにして促し得るのか、その具体的な方策の案出が急務であると考えられた。
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