今年度は、超高齢期の高齢者の生理・心理機能を測定し、生物的機能の低下と心理的機能の成熟のズレを検討するため、健康な80歳以上の20名の高齢者に協力を依頼し、調査を実施した。 調査内容は、前年度の調査と同様とし、次の調査を実施した。①創造性の測定:S-A創造性検査C版(創造性心理研究会編,1969)、②知的機能の測定:WAIS-III短縮版(大六・山中他,2004)、③運動機能の測定:握力や片足立ちなど4項目の測定、④質問紙調査:性格(Big-Five;清水・山本,2007)、主観的幸福感(生活度満足度尺度K;古野野他,1989),自尊感情(山本・松井ら,1970)、老いの自覚尺度(水上・岩淵,2005)など、⑤面接調査:年齢や家族構成また既往歴や現病歴,職業歴やなどの基本属性や日々の生活スタイルに関する面接であった。 これまでの結果をふまえて検討した結果、社会的側面について「社会参加活動」を中心にみていくと、男性や74歳以下の年齢層では、単独での行動を通して、他者や地域社会と接触という形での社会参加も多く行っている事、男女ともに高齢になってから新たに活動を開始している割合が多いことが認められた。つまり、80歳を超えても新たに活動を開始していることから、年齢とともに活動内容を変化させつつ、活動を継続させながら、社会に適応させていることが推察できる。 また、生理的側面について「脳波」を中心にみていくと、75-84歳群では65-74歳群に比べα波の平均周波数は高くなり、さらに高齢化した健康な85-89歳群では、従来の研究で指摘されてきた徐波化が認められなかったのみならず、熟年者脳波の特徴である9-10Hzの優勢成分が出現し、またスペクトル構造も極めてシャープで、熟年者脳波との差異も見出せなかった。即ち、日々の創造的な活動が脳機能の維持に何らかの影響を及ぼしている可能性が考えられた。
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