研究概要 |
3年間の研究計画の2年目にあたる平成23年度は,初年度に構築された理論的な枠組みを対人援助の実践現場で確認するために,高齢者介護施設の介護職員を対象としたインタビュー調査を行なった。 初年度の理論的研究によって,専門的援助者による高齢者虐待の背景には,共感性メカニズムの不活性化があり,通常は高齢者によって提示される認知的手がかりが共感性を喚起するはずの場面で,手がかりの効力が失われている可能性が指摘された。しかし,それがどのような状況で生じるかについては資料が見当たらないため,実践現場から詳細な資料を得る必要があるという展望を示した。今年度の研究活動は,おもにそのためのインタビューの実施とデータの分析であった。 インタビュー調査の対象者は,静岡県内の特別養護老人ホームおよび介護付き有料老人ホームで介護職にある専任職員16名である(男性3名,女性13名)。インタビューは,協力者の職場会議室や面接室を利用して個別に行なった。あらかじめ主要なインタビュー項目を決めておき,協力者の回答に応じて内容の詳細を聞き取っていく半構造化面接であった。インタビュー項目は,協力者の勤続年数等の基本情報,日常の業務の流れ,介護職を選んだ理由,日常の業務負担感,自分が理想とするケアとその阻害要因などであった。 インタビューの音声記録を文字データに書き起こし,現在は質的な分析を行なっている最中である。まだデータ全体を説明するモデルは生成できていないが,被援助者に対する態度を規定する上で時間的切迫感の影響が強いこと,それにもかかわらず業務遂行の時間的遅れが何をもたらすのかについては明確な説明を欠いていることなどが示されている。状況要因としての多忙さが被援助者への認知に与える影響を,具体的な文脈との関連でモデル化できる見通しである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の研究計画はインタビューの実施と分析が主たる活動であった。インタビュー協力者はおおむね当初の予定通りの人数を集めることができ,当該年度内にインタビューを完了することができている。また,分析についても,質的データの分析であるため時間がかかっており完了には至っていないが,見通しがついているため,おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題を今後推進するにあたって,まずインタビュー調査で得られたデータの分析を完了させ,論文執筆を進める予定である。それとともに,共感の不活性化が生じるメカニズムを実験的に検討する。計画に記載した通り,心理的狭窄が生じるような状況を設定し,その状況下で共感的反応が誘発されるか,あるいは抑制されるかを測定する。研究計画に変更点や遂行上の問題点は特にない。
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