研究課題
人間の眼は数秒に一度、まばたきを行う。この百数十ミリ秒の間、外界からの視覚情報の入力が遮断されてしまう。これだけの時間の長さにもかかわらず、我々はまばたきの存在をほとんど意識することがない。このため、まばたきの間には脳における何らかの特別な働きが行われると考えられる。この働きを錯視を使って調べた。回転するランダムなテクスチャをもった円盤を観察しつつ、まばたきをすると、一瞬円盤が高速で逆回転するのが見える。今年度はこの錯視について、CNRS(仏)Reading大学(英)の研究者との共同研究へと発展させることができた。動いているものが突然遮断されたり、別のテクスチャに変更されたりすることにより、この錯視が生じることが明らかになり、運動知覚の基本的な特性であることが明らかになった。この研究は、2013年にアメリカの権威あるジャーナル(Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS))に掲載された。この錯視はまばたきの前後において錯覚的な仮現運動を起こすことにより、見えの動きの連続性を保っているという証拠となる。次にまばたきにおける視覚情報の途切れている時間がなぜ感じられないのか、という問いに対して、目が閉じる瞬間は視覚的記憶が残存するからと考えられるが、閉じていた目が開いた瞬間には、新たな視覚情報を取り入れることになる。まばたきはサッカードに付随して起こることも多く、まばたき前の光景と違ったものを取り入れなければならない。その違和感がない理由として、chronostasisがまばたきによって生じるものと思われる。まばたきで目が開いた瞬間に提示した視覚刺激の時間の長さが、実際より長く感じられるのを観察した。これは、目が開いた瞬間に見たものを、まばたきの期間中も存続していたものとして認識するのに有効な時間の錯覚といえる。
24年度が最終年度であるため、記入しない。
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Proceedings of the National Academy of Sciences
巻: 110 ページ: 7080-7085