ヒトの非論理的であるが効率のよい思考の背景に、本来一方向でしか成り立たないA→Bの関係を逆も成立すると推論してしまう対称性推論を行うバイアスがあると言われている。対称性推論は、ことばと指示対称の関係を理解し語意推論をするために必須である。しかし、このバイアスが言語学習によって出現するのか、言語学習以前に存在するのか、そもそもこれが本当にヒト固有の能力なのか、について議論がある。現在まで研究者はヒト乳児とヒト以外の動物の比較について語りながら、ヒト乳児とヒト以外の動物の推論能力を同じ土俵で比べることは方法論的に困難であったからである。本年度はヒト乳児と直接比較可能な土俵で対称性推論の有無を検討するため、従来のオペラント条件づけではなく、乳児とチンパンジーの推論能力を直接比較できるパラダイムの開発をめざして、予備実験を行った。H22年度は申請者・分担者の今井と岡田は非言語の領域で言語(語意)学習が始まる以前(生後8ヶ月)、言語学習初期(生後14ヶ月)にモノ→動きの連合を学習させた。まず、学習と同じ方向性(モノ→動き)で乳児がこの刺激・手続きでcontingencyの学習ができるかを確認した。今回使用した刺激は動きがあるので乳児は注意を向けてよく見るが、反面馴化をなかなかしないことがわかった。馴化した乳児については対称性の理解が見られたが、馴化をしなかった乳児は、対称性の理解が確認できなかった。来年度はこの点を考慮し、馴化がもう少し容易になるよう刺激を改良して実験を進めていく予定である。
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