重症心身障害者(以下、重障者)との関わり合いにおいては、言語を介したコミュニケーションは非常に難しい。そのため、言語行動以外の方法によるコミュニケーションをどのように構築していくか重要である。つまり、非言語的な交信関係をいかに豊かにしていくかが課題となる。これまでも、重障者の小さな状態変化に着目し、そこにコミュニケーションの糸口を見いだす試みは、多くの実践が積み重ねられてきた。視線や表情の変化、あるいはわずかな手足の動きなどを手がかりにして、重障者が外界との何らかの秩序ある交渉を行っていることが明らかになっている。こうした重障者の発信情報の受信においては、行動が微弱な場合や行動の表出条件が容易に推測できない場合には、積極的な読み取りが有効ともいわれている。情動表出の中でも、特に、笑いや微笑行動について、健常児・者の発達的視点から多く研究されてきた。郷間ら(2005)は、「笑い」がその背景にある認知や情緒や社会性の発達の諸相を示すものであるとして、重障児・者の精神活動を微笑行動によって捉え、QOL評価への可能性を示唆している。しかしながら、重障者においても、生活年齢と経験を重ねる中で「笑い」の意味は発達的に変化しており、「笑い」のみが快や良い状態を示す表情ではない可能性がある。 そこで、本研究では重障者と関わり手の交信場面における表情変化に着目し、笑顔センサーを使用して笑顔度の評定をおこなった。初期発達の比較として、健常児乳児について同様の観察をおこなった。その結果、健常乳児では1ヵ月齢から複雑な表情が見られ、笑顔度による評価が可能だった。しかし、重障児においては笑顔度の評価が難しく、重障児においては人間による評価、特に養育者や支援者など、対象児との関係における経験が表情評価の情報として重要であることが示唆された。
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