KdV方程式やKP方程式と呼ばれる非線形偏微分方程式と、代数曲線(リーマン面)の理論には密接な関係があることは古くから知られていた。アーベル多様体のテータ関数がKP方程式の解となることと、それが代数曲線から生じることが同値であるというNovikov予想は塩田氏により解決されたが、その証明では佐藤幹夫氏によるタウ関数の理論が中心的な役割を果たす.Andersonはタウ関数のp-進類似を導入し、フェルマー曲線の数論幾何へ応用を与えた。その理論を発展させることで、本年度の研究では以下の二つの成果を得た:(1)小林真一氏との共同研究ではAndersonの結果を拡張した。(2)宮坂宥憲氏との共同研究で別種の代数曲線に対しAndersonの類似の結果を得た。 以下、これらの結果をより詳しく説明する。ヤコビ多様体のテータ因子上ある位数有限の点を決定することは数論的にたいへん興味深い問題であり、特に種数が2の場合には多くの研究がなされている。しかし、その場合を除くとこの問題に対する完全な解答は一つの例に対してすら与えられていない。 Andersonはフェルマー曲線の商に対して位数が素数pの点がテータ因子に乗るかどうかをp-進タウ関数を用いて判定する方法を与えた。小林氏との共同研究では、この結果を位数が素数pの冪の点に拡張し、さらにヤコビ多様体の形式群とp-進タウ関数の間に潜む不思議な関係を発見した。(論文は準備中。)宮坂氏との共同研究では、類似の結果をある種の超楕円曲線に対して与えた。(論文は投稿中。)その証明はAndersonのp-進タウ関数を本質的に利用するものであり、p-進佐藤理論の数論幾何への応用としては15年以上前のAnderson自身の結果以来のものとなっている。
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