本研究のテーマは、結び目理論におけるアレキサンダー多項式と、整数論の岩澤多項式および代数曲線の合同ゼータ関数の類似を考察し、結び目理論と整数論のそれぞれに新しい研究を切り開くことである。研究代表者はもともと整数論の研究者であるため、本研究のスタートとして、結び目理論自体を学ぶことが必要であった。そのために、文献を収集したり結び目理論の各種の研究集会に出席するとともに、トロント大学の村杉邦夫名誉教授や名古屋工業大学の平澤美可三准教授と協議・討論する機会を何度ももった。 上記のような活動で、結び目理論と整数論の対比や類似を考察した結果、(1)代数体の Z_p 拡大の岩澤多項式および代数曲線の合同ゼータ関数と似た性質を持つのは「ファイバー結び目」のアレキサンダー多項式であろう、(2)整数論との類似を考察するためには、多くの結び目の中で「2橋結び目(有理結び目)」というクラスがもっとも相応しいであろう、(3)アレキサンダー多項式の定義法はいくつかあるが、整数論とフィットするのは、被覆空間のホモロジー群への群作用を通じた定義であろう、というような事柄が明らかとなった。また、(4)2橋結び目のアレキサンダー多項式を求めるには、有理数の連分数展開の中で「偶数展開」という手法を利用するのが効率的であろう、ということもわかった。(偶数展開を使えば、2橋結び目がファイバー結び目であるための条件も明確になる。) このような展開を受けて、本研究では、ファイバー結び目である2橋結び目のアレキサンダー多項式に着目して、数式処理ソフト Maple による計算を実行した。特に、岩澤多項式との類似の観点からも、求めたアレキサンダー多項式の零点の性質が重要であるので、計算機の利用によって、零点の分布範囲を詳しく探求した。
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