研究概要 |
大鹿はタイヒミュラー空間のBers埋め込みにおいて,その境界を擬等角変形で移りあうものを同一視することによる縮約を考えた.縮約で得られた空間が基点の選び方によらず一定であることを示し,写像類群が連続に作用することを示した.Bers境界自体には写像類群が作用しないことが分かっているので,この結果はBers境界の位相構造に新たな知見をもたらすことになった.さらにこの空間の自己同相写像は全て(拡張された)写像類の作用から導かれることを,曲線複体への単体的同型写像を構成することにより示した.一方でこの空間に同じ作用をする写像類は同一でなくてはならないことも示された.これらにより,タイヒミュラー空間と曲線複体の新たな結びつきが与えられたことになる.この結果の一部はOberwolfachの研究集会で公表した. またクライン群の幾何的極限を用いて,pseudor-Anosov写像の曲線複体への作用を解釈しなおし,位相的entropyとvolumeの関係に新しい知見をもたらす試みを開始した.この研究についてはまだ萌芽的状態にあるため,来年度以降,連携研究者との共同研究を通じて,結果に結びつけたいと考えている. 角はランダムな複素力学系と有理関数半群の力学系を研究した.特に,ランダムな複素力学系におけるカオスの消滅やその極限状態で出現する複素特異関数を研究した.この結果はイリノイ大学で行われた研究集会を始め,様々な研究集会で公表した.
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