研究概要 |
本研究の目的は,Vovkらが提唱しているゲーム論的枠組みにおける確率論の定式化を一つの足がかりとして,一般情報源に対するユニバーサル符号化理論の観点から確率空間をアプリオリに仮定しない経験確率の理論を構築することをめざすことにある.また,こうした定式化の試みと並行して,原理的には確率概念とは無縁であるはずの力学的システム(例えば熱/統計力学的システム)が確率的記述を許容することの根源的理由を探究したい. 具体的なユニバーサル符号がどの程度のランダムネス識別能力があるかを検討するため,本年度はVovkらの研究の出発点となった「ゲーム論的大数の法則」の情報理論的研究を行った.Vovkらは,確率空間を一切用いずに,大数の強法則を意味すると解釈される,ある種のゲームの漸近評価を得ているが,その証明において,混合戦略とよばれる,巧妙ではあるが作為的な戦略を本質的に用いている.一方Kumonらは,i.i.d.過程の場合には,混合戦略を用いずとも単一のBayes戦略で同等の漸近挙動が導出できることを証明している.本研究では,単一のユニバーサル符号のみを用いて同等の結果が得られるかどうかを検討した.その結果,やはりi.i.d.過程に対してではあるが,Lynch-Davisson符号化を応用することで,Kumonらと同じ漸近評価を得ることに成功した.さらに,予備的な数値実験により,例えばロジスティック写像が生成するデータ系列がBernoulli過程と同型か否かという判定問題において,パラメタの変化に非常に鋭敏なテストを構成できることも分かった.しかし,Vovkらの定理は定常性を満たさない過程に対しても成立するのに対し,今年度の研究では,そこまでをカバーできる論法をユニバーサル符号化の観点から導くことはできなかったので,今後も研究を継続していく.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Vovkらの研究の出発点となったゲーム論的大数の法則について,定常性は仮定するものの,ユニバーサル符号化の観点のみを用いた別証明を与えることに成功した.しかしながら,従来のユニバーサル符号理論はしばしば定常性やエルゴード性を仮定した漸近評価が中心であるため,Vovk型のゲーム論的大数の法則をカバーするには,こうした仮定を用いないユニバーサル符号化の漸近評価を研究する必要がある.
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