研究概要 |
「研究計画」に掲げた課題は(I),(II),(III)であった. 平成22年度は「研究計画」の(III)を遂行する計画であった.スカラー場の量子論の模型を一般的な擬リーマン多様体上(時間に依らないローレンツ多様体)に定義すれば,もともとのハミルトニアンに質量がなくても自然にノンゼロの変数質量が現れる.これまでにわかっていたことは,変数質量m(x)が早く減衰すれば基底状態は非存在,ゆっくり減衰すれば基底状態が存在するというkとであった.今回の研究ではさらにその減衰性のオーダーを厳密に特定した.つまりm(x)が1/|x|^δ,δ>2,で減衰すれば,基底状態は存在せず,1/|x|^2よりゆっくり減衰すれば基底状態が存在するという事実を証明した.基底状態の存在の証明には擬微分作用素の解析を使い,非存在の証明に本質的に汎関数積分を使った.この結果により減衰のオーダーによって基底状態の存在非存在が特徴づけら測ることになった.これは非常に大きな前進である. (I)は相対論的なPF模型の汎関数積分表示による解析であった.この研究に関しても最終的な結論を得ることができた.特にファインマン-カッツ公式に現れるヒルベルト空間値確率積分の極限で定義される確率過程の性質を調べあげ,ハミルトニアンの本質的自己共役性,基底状態の一意性,そして基底状態の減衰性を示した.ここでは場の量子論に現れるある確率過程がマルチンゲール性をもつというととを示して難関を突破した. (II)は多体の相対論的ネルソン模型の解析であったが,難関だった人工的な質量をもった基底状態の一様な指数減衰性を汎関数積分表示で示すことができ,計画通りマスレスの場合にもenhanced bindingを示すことができた.
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