物質進化の初期段階を明らかにするために、ナノ粒子の亦外スペクトルを実験室で得ることが目的である。天体のスペクトルに多数の未同定バンドが残っている一因はナノ領域に現れる特異現象にあると考えている。ナノ粒子では準安定結晶構造の出現や表面原子の再配列が赤外スペクトルを変化させ得るため、nmサイズの星周ダストの生成過程を実験室で再現し、気相中をフリーに漂うナノ粒子の核形成前から成長後までの赤外スペクトルを分離して得る。得られた、成長途中のnmサイズのシリケイトや酸化物、炭素質粒子の赤外スペクトルをすばる望遠鏡や、あかり衛星のデータと比較し、星周ダストの成長過程の理解につなげる。 赤外スペクトルその場観測装置を新たに作製し、気相中をフリーに漂うナノ粒子の赤外スペクトルを測定できるようになった。まず、輻射場の強い大質量星形成領域をすばる望遠鏡で観測し、実験結果と比較することで中間赤外領域に見られる9μmの未同定赤外バンドの起源を明らかにする試みを行った。このバンドは炭素質物質起源であると推測されているが、その起源や生成メカニズムは不明である。すばる望遠鏡による観測の結果発見した、9μmをピークとする半値幅1μmの非常にブロードな対称バンドは、一連の未同定赤外バンドとは分布が異なり、赤外コア近傍にのみ存在していた。観測結果に対して、実験室で生成した粒子の透過型電子顕微鏡観察、およびその場測定に先立ち、生成後の粒子に対して赤外スペクトル測定を行った結果、炭素を不純物として格子間に含むSiCが9μmバンドを再現することを明らかにした。その強度~e^<-18>W cm^<-2>mm^<-1>も観測と一致していた。炭素リッチなSiCはSiを含む非晶質炭素薄膜への放射光照射により生成することが分かっている。この結果から、晩期星で作られた非晶質ダストが強輻射場環境下で変成した結果、9μmバンドが現れたと考えられる。
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