トリチウムと超伝導検出器を用いたニュートリノ質量測定を目指す新規な検出器の開発を目的とした。超伝導検出器として周波数領域読み出しが可能なMKID(Microwave Kinetic Inductance Detector)の開発を行った。検出原理は、トリチウム崩壊によって生じるベータ線と反跳原子核がトリチウム薄膜に生成するフォノンが超伝導体内のクーパー対を解離し、それが超伝導体のインダクタンスを変化させることを利用する。初年度はぐマイクロストリップ(MS)型のMKIDの開発を目指した。電磁シミュレーションによる設計を行い、それに基づき実機をデザイン・作製した。共振ピークは期待通りの位置に生じたが、共振の鋭さを示すQ値が6000程度となり、検出器の性能に必要な5x104には届かなかった。詳しい調査により、それはMSで使用している絶縁膜(SiO_2)の誘電損失であることがわかった。絶縁層を他の物質(Al_2O_3、MgO、Nb_2O_5)で試したが、いずれも要求を満たすQ値に達成しなかった。そこで、Si基板の上に直接Nb薄膜でcPw(Coplanar waveguide)型のMKIDを作製したところ、最大2x10^5のQ値を達成した。Nb薄膜の形成条件を変えて素子を制作し、ヘリウム減圧システムで測定を繰り返した。その結果、最も高いQ値を持ちかつ最大の歩留まりを達成できる条件を見つけた。 トリチウム崩壊において測定されるエネルギーは20eV程度である。そこで、光ファイバーとプリズムを用いて可視光を冷凍機内部の検出素子に照射する仕組みを構成した。可視光を照射したところ応答は確認できたが、検出効率が悪いことがわかった。これはMKIDの共振器の太さが太い・Nb膜が厚いという理由が考えられる。20eVのエネルギーを測定するためには、検出器をより細線で薄く形成する必要があるが、細くなるほど歩留まりが悪くなり作製技術も難しくなる。今後、成膜条件・フォトレジスト作製過程一つ一つをより詳細に検討し最適化する必要があることがわかった。
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