本研究では、新しい超音波測定法を開発し、研究の空白地帯である超ウラン化合物の超音波物性の研究を行うことを目的としている。これまで、東北大学金属材料研究所量子エネルギー材料科学国際研究センター(茨城県大洗)のアクチノイド棟に設置されているスクイド磁化測定装置で動作する試料ホルダーを含む測定システムの開発、試料ホルダーの作製と、光リソグラフィーを用いた小型で100MHz領域の測定に耐える専用の電気音響変換素子の開発、専用の測定ソフトウェアの開発を行って来た。今年度は、これらの超音波測定の資産を活用して、鉄系超伝導体とURu2Si2の実験を精力的に行った。 鉄系超伝導体Ba(Fe1-xCox)2As2に関しては、C66弾性定数に異常な軟化現象が観測され、そのC66は量子臨界性を示すことが明らかにされていた。今年度、鉄系超伝導体研究で開発された量子臨界点近傍の物理をURu2Si2に系に応用することで、新たな知見を得ることができると考えた。具体的には、東大物性研究所国際超強磁場科学研究施設において55Tまでのパルス磁場中の超音波測定を行った。この系の約36Tの量子臨界点近傍の弾性的性質を研究し、鉄系超伝導体の量子臨界点近傍の振る舞いと比較した。その結果、(C11-C12)/2弾性定数は鉄系超伝導体におけるC66と同様に量子臨界点を超えるとその異常は急速に消滅することがわかった。また、鉄系と異なり、隠れた秩序の相の秩序変数と(C11-C12)/2弾性定数の弾性歪との相互作用は磁歪型であり、量子臨界点近傍でその結合は増大することが示唆された。この結果は、隠れた秩序相において、(C11-C12)/2に対応する歪みによる斜方晶変形の実現を強く示唆している。
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