研究概要 |
本研究は,有機ゼロギャップ半導体α-(BEDT-TTF)_2l_3において埋論的に示唆されている特異な傾斜ディラックコーンの検出に遠赤外分光手法により挑戦し,低エネルギー励起状態や異方的な速度を有する質量ゼロ準粒子状態の解明を目指すものである.本年度は,実験に使用する良質単結晶の作製,キャラクタリゼーションと既存設備を使用した予備的高圧赤外実験を行い,次年度以降の高輝度放射光施設SPring-8を利用した本格実験の準備を中心に行なった. (1)良質単結晶育成とキャラクタリゼーション ダイアモンドアンビルを使用する高圧光学実験用に小型ではあるが純良な単結晶,特に結晶表面が清浄な結晶を得ることを目的に単結晶育成を継続的に行なった.いくつかの目的に合致した結晶が得られこれを高圧光学予備実験と磁化抵抗測定による試料評価を行いその品質を確認した. (2)常圧遠赤外分光予備実験 高圧実験に先駆けて(1)で作製した単結晶の常圧における光学スペクトル測定を行い,低温非金属相(電荷秩序絶縁体相)での電荷状態,バンド構造を明らかにした.その結果,これまで報告されている実験結果を定量的にも再現し,作製した結晶に高圧を印加することにより,指摘されているディラックコーン状態になることの確証を得た. (3)放射光を利用した高圧遠赤外分光予備実験 放射光赤外光を利用した低温高圧遠赤外分光実験の予備実験を行った.SPring-8のBL43IR赤外物性ビームラインで,神戸大学岡村氏,SPring-8池本,森脇氏の協力を得て,このビームラインとして初めてとなる柔らかい有機物質のダイアモンドアンビルセルを用いた高圧赤外実験を行なった.特に試料の高圧封入,ハンドリング技術の向上を目的に実験を行い,予備的な結果を得た.この結果は日本物理学会で発表した.実験結果の再現性を確かめる必要があるが,必要な反射強度を得られることが解った.
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