研究概要 |
軟X線吸収分光法は、遷移金属(3d,4d)化合物、希土類(4f)化合物の基底電子状態(価数や局在遍歴性、結晶場基底状態等)を検出する強力な手法として知られ、近年もその進展は著しい。しかしながら、この100eVから1500eVのエネルギーの軟X線は物質透過能が低く、結果として、高圧はもちろん、極低温、高磁場といった極限環境下への適用に実質的な困難がある。そこで本研究では、物質透過能の高い硬X線を用いたX線非弾性散乱法による希土類の軟X線吸収スペクトル測定法を開発し、これまで不可能であった極限環境下軟X線吸収分光法の実現とそれによる量子臨界状態でのf電子強相関電子系の電子状態測定を目的とする。 本年度は、実際に希土類化合物の試料を用いたX線非弾性散乱実験を実施し、どの程度の散乱強度が得られるのか、f電子基底状態の変化がどのように観測されるのか、また、どの程度の測定時間が必要なのか、といった基本情報を得ることに主眼を置いた。試料としては、大きな価数転移を起こすEuPd_2Si_2を用いた。約11.6keVの入射X線をSi(400)高分解能モノクロメータで分光した後、試料に照射し、散乱したX線をSi(755)アナライザで分光し、励起スペクトルを得た。無事、4d→4f遷移に対応する吸収をΔE=140eV近傍に観測することには成功したが、信号強度は約03counts/秒と弱く、しかも0.6 counts/秒のCompton散乱の上に乗っていた。価数転移に伴う温度変化は観測されたが、予想ほど大きいものではなかった。これらの結果は、強相関電子系の国際会議SCES2011で報告する予定である。また、この結果を受けて、23年度には強度増大のためのアナライザーシステムを導入する予定である。
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