本研究の目的は、超弱磁場環境下(~10uG)でRbのボース凝縮体を生成する全く新しい実験系を構築することにある。RbのF=1基底状態は強磁性をもっているため、ゼーマンシフトを抑圧すると、長距離、非等方的な磁気ダイポール相互作用を有するようになる。これにより、スピンと軌道とが結合し、質量流とスピンテクスチャーを伴う新しいダイナミクス、量子相が顕現する。今年度、我々は、第一真空槽内でRbの磁気光学トラップを生成し、ここにプッシュ光を照射することで、十分環境磁場が抑圧された第二真空槽へと原子運び、そこで再度磁気光学トラップを行うことに成功した。この原子集団を光トラップし、蒸発冷却を行うことでボース凝縮体を生成する。光トラップを構成するための1.06umレーザーをすでに開発していたが、今年度、実際に共振器に光を導入したところ、問題点が発見された。我々は、十分深い光トラップポテンシャルを得るために、ガラスセルをボウタイ型の共振器で囲み、共振器内の光パワーを増大させることを計画している。そのためには、レーザーの周波数がモードホップを起こさず、十分安定であることが必須となる。しかし我々が昨年作成したレーザーは、10Wの出力がでるものの、モードホップが頻繁に発生し、光共振器を長時間安定化することが出来なかった。東京大学井上研究室の先行研究により、このレーザーのモードホップの主要因が、共振器長の熱膨張によるものであることがわかっていたので、これを抑圧する機構を導入したところ、ほぼモードホップフリーのレーザーを作成することが出来た。今後、このレーザーを既に構築されている光共振器に導入し蒸発冷却を施すことで、超弱磁場環境下で10^6個程度のボース凝縮体を生成することを目指していく。
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