研究概要 |
本研究では,表面波の振幅情報を基に,地域的スケールでの高分解能な上部マントル3次元非弾性減衰構造モデルを復元するための実用的手法の確立を目指している.今年度は,高密度な広帯域地震観測網の記録から振幅異常を効率的に抽出するための手法の開発とその応用を進めると同時に,3次元Q構造を復元する上で必須となるS波速度構造モデルの高精度化に関する研究も行った. まず,取り扱いの難しい振幅異常データを大量に収集するために,高密度観測網を利用した二点法に基づく振幅解析を行った.この手法は震源情報に依存せず,高密度アレイを用いることで観測点間の振幅異常値を十分な精度で大量に収集できる.そこで,特に良質な観測波形が大量に得られる北米大陸の高密度地震観測網(USArray)の5年分のデータに適用し,約10万波線の試験データを得ることができた.この大量の振幅異常データを用いて,周波数毎の減衰係数の空間分布に展開した.この予備的な減衰係数モデルでは,米国中西部より東側の安定大陸地域では低減衰域となる一方,米国西部の火山地域一帯では顕著な高減衰域となり,さらに,ホットスポット火山や地溝帯の直下の局所的な高減衰域もみられる.利用した個々の振幅異常の測定精度やサイト特性の補正等,今後更なる改善の余地はあるが,収集された大量の振幅異常データを用いることで,高分解能な3次元減衰モデルの復元に極めて有効であることが示された.さらに,振幅データからQ構造モデルを求める上で不可欠となる3次元速度構造の高精度化に関する研究も行った.特に,北米大陸及び豪州大陸における3次元異方的不均質構造モデルから,大陸リソスフェアの厚さや異方性分布との関係が明らかとなり,豪州大陸のリソスフェア直下の特異な偏向異方性の存在も見出された.これらの成果の一部は,国内及び国際学会において発表を行った.
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