研究概要 |
温泉環境での微生物マットは始生代~原生代の地層に残された微生物作用の痕跡を解く鍵である。本年度は,大分・秋田県・アメリカ合衆国ユタ州の温泉堆積物を対象に研究を進め。岡山県の淡水性ストロマトライトについては微小電極法を適用した(Shiraishi et al., 2010)。 大分県長湯温泉のアラゴナイト質堆積物には明確な日輪組織が発達する。堆積物表面から注意深く摘出した微生物群集はシアノバクテリアと従属栄養細菌であるHydrogenofagaから成る多様度の低いものであり,これらの代謝,特に細胞外高分子物質の放出が日輪組織を形成したと結論付けられた(Okumura et al., in press)。原生代のストロマトライトのいくつかはこの堆積物と類似した組織を示し,光合成細菌が関与した日周期のリズムである可能性が示唆された。 ユタ州にあるクリスタルガイザーは約16時間毎に湧出する間欠泉であり,そこから沈殿する縞状堆積物は湧出間隔を反映すると予想された。しかし,5日間の観測結果はラミナが光量に対応したシアノバクテリアの活性変化により発達することが示された(Takashima et al., 2011)。 秋田県の奥々八九郎温泉は鉄質沈殿物を析出する野湯である。この沈殿物は方解石基質中に枝状の鉄水酸化物が濃集するという特異な組織を示す。遺伝子解析の結果,微生物群集は微好気性の鉄酸化細菌とシアノバクテリアから成り,2つの微生物が共生することにより鉄水酸化物が沈殿すると判断された。これは縞状鉄鉱層のモデルケースを示す(Takashima et al., 2011)。
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