研究概要 |
温泉環境での微生物マットは始生代~原生代の地層に残された微生物作用の痕跡を解く鍵である。本年度は,大分県・鹿児島県・インドネシア国ジェワ島の温泉堆積物を対象に研究を進めた。 大分県長湯温泉のアラゴナイト質堆積物には明確な日輪組織が発達する。堆積物表面から注意深く摘出した微生物群集はフィラメント状シアノバクテリアと従属栄養細菌であるHydrogenofagaから成る多様度の低いものであり,これらの代謝,特に細胞外高分子物質の放出が日輪組織を形成したと結論付けられた。また,鹿児島県安楽温泉でも同様の検討を行い,高温環境下ではココイド状シアノバクテリアが卓越し,その光合成日周期を反映した日輪組織が発達することを見いだした。 ジャワ島Pancuran Pituでは,幅100m・延長175mに達する大規模トラバーチンにおいて,水流条件と堆積物組織の関連性が示された。流れの速い場所では長湯温泉で認められた結晶質の日輪トラバーチンが発達するのに対し,流れが遅い場所では微生物マットに富む空隙質な日輪トラバーチンが発達する。後者は,夜に発達する結晶層と昼に発達する微生物に富むミクライト層の繰り返しからなり,約0.5mm/日の速度で成長する。これらトラバーチンに認められる組織の特徴と日輪の間隔は,いくつかの原生代のストロマトライトと酷似する。すなわち,これらも日周期の縞組織である可能性がある。 以上の研究結果から,トラバーチンの日輪組織は共通してシアノバクテリアの光合成に関わる日周期のリズムを反映しているものと想定される。なお,3カ所の温泉からの成果については複数の学会でも発表している。さらに,秋田県の温泉で生じた鉄質沈殿物に関する論文を出版した(Takashima et al.,2011)。
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