本年度は,昨年度までの結果をふまえた上で,前処理法の検討と,既存NMRの高感度化を行った。具体的には,前者においては,(1) 妨害有機物の同定,(2) 有機溶媒による抽出,マイクロ固相抽出などの前処理法を検討し,妨害有機物や塩の除去法の検討を行った。また後者においては,(1) 13C,15Nでラベルでの官能基修飾の最適化(官能基特異的な化学修飾の検討)(2) 正確に定量を行うために標準法(内部標準や外部標準)の検討,(3) 核スピンの励起方法の検討,(4) 2次元NMRの検討,を行った。 その結果,試料に含まれる比較的低分子の有機酸と,海性の試料に特有な塩分の双方が,複合的に組み合わさり,NMRの測定を困難にしていることを突き止めた。具体的には,(1) 塩分の除去が必須である。一方で,低分子の有機酸は,基本的に,測定自体には影響を及ぼさない,(2) 低分子有機酸存在化では,研究対象の有機物を有機溶媒で抽出しても,試料に含まれる塩分の除去を完全に行うことが難しい,ということがわかった。しかし,有機溶媒による抽出を行うことで,疎水性の有機物に対しては,塩の影響をかなり削減することができ,内部標準法を用い,且つ,NMRの測定条件の最適化することで,平成22年度(研究初年度)に良い成果が得られた湖沼性試料における1H NMRの約半分の感度:マイクロ(5×10-5)モルオーダーでの定量的な検出ができることもわかった。 13Cラベル化された官能基で試料を修飾すると,ラベル化率や分析対象の有機物の構造に対応して,最大で約300倍の感度向上が得られることがわかった。但し,感度の向上が有機物の構造に依存するということは,定量が難しくなるということも意味し,定量性の確保が今後の重大な課題である。
|