研究概要 |
昨年度は、大気圧で作動できるマイクロプラズマジェットをプラズマ源として用いて、COS細胞(アフリカ緑サル腎細胞)にGFP(緑色蛍光タンパク)遺伝子を導入する実験を試み、照射後一定時間培養した細胞内にGFPが導入されていることを確認した。今年度は、その遺伝子導入のメカニズムを解明するために、何種類かのプラズマ源を用いて遺伝子導入の実験を行った。まず、プラズマジェットを用いた実験では、ジェットの下流にそれぞれ金属メッシュと絶縁体メッシュをを配置した場合の比較から、荷電粒子の照射効果が大きいことを確認した。次に、銅製極細管(キャピラリー)を上部電極とし、サンプルを入れたシャーレの下部に配置した線状電極との間で放電を生成する配置で実験を行った。印加電圧が放電開始電圧以下では遺伝子は殆ど導入されなかったが、それ以上では急激に導入率が上昇した。このことからも、遺伝子導入には印加電圧による電界のみの効果ではなく、プラズマによって生成された荷電粒子の影響が大きいと推定される。これらの実験結果に基づいて、電荷を効率的に供給できるエレクトロスプレー法を適用することにした。注射器のようにシリンジ部と中空金属針を有するヘッドをシャーレ上に配置して、金属針に高電圧を印加しながらシリンジ部から溶液を滴下させると霧状になった液滴が帯電して噴霧される。シリンジ部に入れる溶液として培養液以外に何を入れればよいかについて試行を重ねた結果、細胞の死滅率を抑制しながら比較的高い導入効率が得られる条件を見出した(詳細については,知財の出願に関係するので省略する)。本年度に行ったこれらの実験の結果から、プラズマを用いた遺伝子導入には,プラズマ中で生成された荷電粒子が細胞表面あるいは遺伝子のタンパク分子を帯電させ、それに起因する局所的な電界が細胞壁に作用しているのではないかと推論される。今後は、これらの解析結果に基づいて、より高効率で実用的な遺伝子導入法の開発を継続していく予定である。
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