研究課題
外部骨格とそれによって保護されたフェニレン回転子(ベンゼン環が回転する)から構成される分子ジャイロスコープの構造と回転運動を第一原理的理論に基づいて評価した。まず、密度汎関数密結合(DFTB)法によって、Si-O-Si結合を含む3本の固定子からなる骨格によって保護されたフェニレン基を持つ既存の分子ジャイロのX線構造を再現できることを示した。さらに完全な平衡構造の探索や回転障壁の高さを正確に見積もるために、回転子と固定子間の分子間力を高精度で評価する電子状態計算法の適用を開始した。高温では、実時間スケールで回転子の挙動を追跡することができ、分子ジャイロの機能開拓に必要な動的応答のシミュレーションができることが分かった。新規分子ジャイロの合成とそれらの回転子の運動も解析した。1,4-ジシラベンゼンのケイ素間を3つの長鎖アルキルで架橋した分子を、結晶中でベンゼン環が回転する分子ジャイロスコープとして合成し、結晶中の構造を明らかにした。回転軸が1軸配向した結晶構造を与え、ベンゼン環が回転するのに十分な空間があった。結晶内部でのベンゼン環の回転または反転運動速度を、ベンゼン上の水素を重水素標識した誘導体をそれぞれ合成して、固体重水素NMRにより検討した。その結果、いずれも数MHz程度の高速回転または反転をしており、温度の上昇とともに加速すること明らかにした。また、ベンゼン環の回転運動のアルキル鎖長依存性も観察された。鎖長の長い化合物の方が、ベンゼン環とアルキル鎖の相互作用が弱いため、同温度での回転または反転速度はより高速であった。
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