本研究では、従来の分光法では観測が難しい酸化物表面上に吸着した単分子層以下の分子を観測するための新しい非線形分光法を開発することを目的とした。酸化物は化学的に安定であるため自然界に普遍的に存在するだけでなく、近年は様々な機能性を持ったものが開発され産業界でも広く利用されている。しかしながらその表面に付いた分子の分光学的な測定は、金属表面のような増強効果が望めないため信号が非常に困難である。このような酸化物表面にも適用可能な分光法として2次の非線形光学過程を用いた界面和周波発生(VSFG)法があげられる。研究代表者はこの方法によって二酸化チタン単結晶表面の振動スペクトルを大気中で測定したところ、1600cm^<-1>に通常の吸着分子の信号より3桁以上強いピークを見出した。また面方位依存性や表面の改質からこのピークが表面単分子層吸着水分子から出ていることが示唆された。そこで本研究では、このピークの巨大な信号増強効果の原因を明らかにし、酸化物一般の分光測定に適用する可能性を探ってきた。昨年度までに重水を用いることによりこの振動ピークの同位体シフトの観測を試みたが、有為な変化は確認できなかった。本年度はさらに、光触媒作用との関係を探るため紫外定常光照射後の接触角測定との関係を探ったが、やはりこの増強ピークの強度は変わらないことがわかった。このことは単分子層吸着水が酸化物表面上に強固に吸着し、大気中で行う表面処理では表面構造を制御できないことを示している。そのため大気中での測定はあきらめ、前年度に引き続き光学測定用の超高真空槽の製作及びそれを用いて欠陥や吸着分子を制御した酸化物表面の製作を行った。しかしながら予算面での制約もあり、超高真空中でこのような表面の作製およびその状態でのVSFG測定までは至らなかった。今後は引き続き他の予算の獲得をおこない、この現象の詳細を解明する予定である。
|