研究概要 |
同位体分別に関する新規な因子である核の体積効果について、相対論的な分子理論を用いた解析を行った。ウランの同位体分別([UO_2Cl_4]^<2->,[UO_2Cl_3]^-,[Ucl_4]^<2->)において、4成分Dirac-Coulomb Hartree-Fock法+Gauss型核電荷モデルを用いると、分別係数の実験値を精度よく再現することがわかった。原子核電荷分布の同位体間のわずかな差異から、化学平衡が左右されることを理論的に解明した。 さらに配位子(Cl,F,Br)の強さと核の体積効果との関係性を調べた。強い配位子ではウランとの結合距離が短くなることで、同位体間のエネルギー差を大きくすることがわかった。同じ分子構造で配位子の種類を変化させると、その場合は分別係数に変化が大きくは見られなかった。したがって、配位する元素が置き換わって生じる電子状態の変化よりも、構造の変化の方が同位体の分別因子に対して敏感であることがわかった。これらの内容を、Journal of Chemical Physics誌に発表した。 さらに原子スペクトルにおいては、同位体間のエネルギー差は核上の電子密度に線形の関係にあると考えられているが、分子においても同様の傾向が確認された。したがって核の体積効果の分別係数は、全エネルギー差から求める以外にも、核上の電子密度から求める方法も有効であることが示された。今回用いた4成分相対論法は相対論的には厳密な理論であるが計算コストが大きい。したがって今後2成分相対論法などのより相対論的な近似を含んだ理論でも同様の手法が適応できるか調べる必要がある。その際に、全エネルギーを比較するアプローチと、核上の電子密度で議論するアプローチがとれることを示せた。
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