研究概要 |
本年度は、最終年度であり、より実践的な応用を目指した研究を実行した。具体的には、(1)分割統治型密度汎関数強束縛分子動力学(DC-DFTB-MD)シミュレーション法の開発、(2)Liイオン電池負極電極上での表面電解質膜(SEI)の形成過程の解明、(3)アミン溶液によるCO2分離・回収(CCS)法の反応機構の解明である。研究テーマ(1)では、結合の生成・開裂を伴う複雑系の非平衡過程を取り扱うために、密度汎関数強束縛(DFTB)法に基づく分子動力学(MD)シミュレーション法を開発した。さらに、本研究者らが開発した分割統治(DC)スキームを組み合わせることで、系の大きさに対する計算時間の線形スケーリングを達成し、シミュレーション時間の大幅な短縮に成功した。たとえば、20,000原子系のエネルギー計算が、従来法では45時間かかっていたのに対して、1分程度で終了するようになった。これにより、適用範囲が格段に拡張した。研究テーマ(2)では、作成したDC-DFTB-MD法を用いて、Liイオン電池の負極電極上でのSEIの形成過程を検討した。その結果、SEIの形成には負極表面上に蓄積された電子が電解質溶媒に電子移動することが重要であることが示された。さらに電解質の分解物が電極表面に結合する様子も再現することができた。また、グラファイトのエッジ面がジグザグ端よりもアームチェア端の方が高活性であることが示された。研究テーマ(3)DC-DFTB法を用いて、CCS技術の一つであるアミンによる化学吸収法の動的過程を検討した。これまで、熱力学的(静的)な観点から反応機構を検討してきたが、DC-DFTB-MDシミュレーションにより、CO2-アミン-水系の複雑な動的過程が明らかとなった。特に、CO2の吸収過程と放散過程では、反応の鍵となるプロトン移動の様子が異なることがはじめて明らかとなった。
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