研究概要 |
ピリジンおよび二つのNHC部位を有するピンサー型のニッケル錯体存在下、シリルエノールエーテル類に2,2-ジフルオロー2-フルオロスルホニル酢酸トリメチルシリル(TFDA)を作用させ、シロキシ基を有するジフルオロシクロプロパン誘導体を収率良く合成した。次に筆者は同様の条件下、ジエノールシリルエーテル(2-シロキシ-1,3-ブタジエン)のジフルオロシクロプロパン化を行った。この場合、生じたビニルシクロプロパンの環拡大が連続して進行し、5,5-ジフルオロ-1-シロキシペンテンが収率良く得られた。ジフルオロシクロプロパン誘導体には、医農薬として用途が期待される。また5,5-ジフルオロ-1-シロキシペンテンには、フッ素置換基を有する有機合成中間体としての用途が期待される。 これらの結果は、系中でニッケルジフルオロカルベン錯体が生成しており、これがアルケン類のジフルオロシクロプロパン化を起こしていることを示唆している。これまで、ジフルオロカルベン錯体を調製し、触媒的な有機合成反応に利用した例はなかった。筆者らは現在、電子供与性が高いNHC部位を有するピンサー型配位子が、ジフルオロカルベン錯体を電子的に安定化しているものと考えている。 上述の成果は、電子豊富なピンサー型NHCニッケル錯体を触媒前駆体として、TFDAをジフルオロカルベン源として組み合わせることにより、有機合成への利用例がほとんどなかったジフルオロカルベン錯体の化学が展開できることを示している。
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