研究概要 |
外的不斉源を用いない絶対不斉合成として,円偏光を用いる手法や結晶のキラリティーを利用する方法がある。これらの反応は,不斉源を用いずに光学活性化合物を提供できる理想的な合成法であるが,用いることのできる反応には制限があり,新しい反応の開発が強く求められている。 我々は,クマリン(α-ピロン)の位置異性体であるクロモン(γ-ピロン)のカルボン酸誘導体(エステル,アミド,ニトリルなど)が溶液中の光反応により,C2対称の二量体を高効率,高収率,高選択的に生成することを初めて見出した。 一般的にこのような芳香環を含む極性化合物の光二量化反応は,複数の立体異性体の混合物になるか,または,対称性の高いメソ体の二量体を与える。ところが,このクロモンカルボン酸誘導体の光照射により得られる生成物は,キラルなC2対称二量体の一種類であり,様々な反応への有効利用が可能な化合物である。 生成物の物性を調査する中で,二量体がコングロメレートを与えるものを見出した。さらにこの二量体は同じ波長の光照射により原料のモノマーに選択的に開裂することで,二量体のラセミ化が同時に進行することになる。二量体はモノマーに比べ溶解度が低く光照射中に晶出してくる。この際に優先晶出が起こることで反応系全体が不斉増幅される,全く新しい絶対不斉反応系を見出した。 21年度には二量化反応の効率,生成物の結晶構造解析,複数の基質での再現性の検証を行い,本手法の一般性と有効性を明らかにすることができた。Br基を有するエチルエステルの二量体の他にCl基を有する基質もコングロメレートを与えることを見出した。22年度は前年度の結果を受けて,CIETの条件検討を行い,太陽光照射で50%eeの不斉発現と増幅反応に成功した。さらに本手法をジアステレオ選択的反応に展開し,アミド側鎖に光学活性なフェネチル基を導入し,結晶化を伴いながらの光照射により,約80%deの動的エピ化を伴う優先的結晶化を実現した。
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