研究概要 |
長波長の近赤外線を利用できる刺激応答型の二光子吸収分子の創製研究として,3級アミンの4級化によりπ電子共役系が交差共役型に拡張可能となる新規刺激応答型分子を設計・合成し、発光効率や二光子吸収能に関する基礎研究を行った。具体的には以下のコンセプトに基づいて分子設計を行った。(i)母核として、刺激応答性ならびに電子アクセプター性を有するピリジン環を用いる、(ii)構造的揺らぎの小さなエチニル基をπ架橋鎖として導入する、(iii)末端に電子ドナー部位としてカルバゾール誘導体を導入する。ピリジン環のN上の孤立電子対はsp^2軌道に存在しπ共役系と直交しているが、これをプロトン化やアルキル化などにより4級化するとπ共役系を分子全体に拡張することが可能となる。またピリジン環の電子密度も大きく低下するので,その物性に大きな変化が期待できる。実際にN-フリーのピリジン誘導体(タイプA)は高い発光量子収率をもつ蛍光体であるが、対応するN-メチル体(タイプB)は光励起エネルギーをもっぱら熱として放出することが明らかとなった。また、両タイプとも大きな二光子吸収断面積を有することから、タイプAの化合物は生体イメージングに、タイプBの化合物はガンなどの光線力学的治療(PDT)に有効と考えられる。 前述のコンセプトを基にイオンセンサーとしての可能性も調べた。その結果、タイプAの化合物がFe^<3+>を選択的に、またタイプBの化合物がフッ素アニオンを高選択的に検出できることを見出した。いずれの場合も、可視部吸収帯の生成・消失と蛍光のオン・オフが相補的であるため、両波長領域における二重チェックが可能である。
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