研究概要 |
外部刺激に応じてπ電子系が拡張される新規刺激応答型の二光子吸収素子の設計・合成、ならびにそれらの物性ならびに機能に関する知見を得る研究を行った。本年度は特に、分子の母核となるピリジン環の窒素原子の4級化に伴うπ共役系の拡張の度合いを定量的に評価するために、4-カルバゾイルフェニルエチニル置換基をピリジン環の2位のみに有する一置換体と2,6-位に有する二置換体について物性の比較を行った。その結果、ピリジン環がフリーの場合、どちらの置換体もほぼ同じ吸収極大値を示すのに比べ、4級化されたピリジニウム塩では二置換体が一置換体に比べ42 nmも長波長シフトすることが判り、二置換体において効果的にπ共役系の拡張が起こっていることが実証された。また、二置換体について溶媒効果を詳しく検討した結果、大きなソルバトクロミズム(トルエン中とジメチルスルホキシド中での差80 nm)が見られ、またMataga-Lippertプロットにおいて一次の比例関係が得られたことから光励起種が1種類であることが明らかになった。二光子吸収能については、800 nm固定波におけるZスキャン測定の結果、二置換体においては4級化された化合物の能力が4級化されないものに比べて約1割増強されることを見出した。 別途、新規分子としてピレン環の1,3,6,8-位に4-ピリジルエチニル基を有する化合物の設計・合成にも挑戦した。4つのエチニル基の導入には成功したが、現在ピリジン環の導入途上にあり、まだ最終目的物の確認には至っていない。
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