研究概要 |
初年度は触媒としてのパラジウム錯体の純度が反応に与える効果を検討した。その結果、市販の酢酸パラジウムは不純物が多く含まれており、再現性をとることが難しかったため、再結晶で精製または合成したものを用いた。酢酸パラジウムまたはゼロ価パラジウム錯体Pd_2(dba)_3とTPPTSの混合系を触媒として反応を行い時間収率曲線を検討したところ、再現性に乏しく誘導期間が見られた。そこで触媒調整のため数時間をとると、再現性が得られることが分かった。これは水中で活性中間体ができるまでにある程度時間が必要であることを意味する。そこで活性中間体と思われるアリルパラジウム錯体を合成し、触媒として用いると誘導期間はなくなることが明らかとなった。 過年度の予備的研究での問題点が解決されたので、撹拌速度の異なる条件で1,1-ジメチルアリルアルコールまたはプレニルアルコールをアリル化剤として、ベンゼンチオールのアリル化反応を検討したところ、どちらの場合にも撹拌速度が1500rpmのときには分岐したアリススルフィドが優先的に生成した。これに対し、撹拌速度が300rpmでは直鎖の生成物の割合が多く生成した。これらの結果は、水/ヘキサン界面でおきる触媒反応が分岐生成物を優先的に生成していることを示唆している。実際、500rpmより高撹拌状態では液胞が多量に生成しており、300rpmでは明らかな水/ヘキサン界面が目視される。界面での触媒の構造や反応についての直接的な情報はまだ得られていないが、アリルパラジウム触媒種のアリル基側は疎水性で有機溶媒側に向き、その反対側には水溶性配位子であるTPPTSが優先的に配列しているのではないかと推定している。さらに界面の状態をより詳細に明らかにする必要があるものを思われる。
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