これまで金属イオン・錯体を含む天然の金属タンパク質の研究は、構造解析と反応のメカニズム解明に尽力が注がれ、その結果多くの生体金属分子の全貌が明らかとなった。一方、この構造や反応の解析結果を用い、次のステップとして天然を凌駕する新しい非天然金属タンパク質を創製する試みは、興味ある分野であるが、まだ黎明期と言える。特に、金属クラスター含有酵素については、まだ顕著な機能改変・制御を試みた報告例はない。したがって、生体材料を用いた、鉄硫黄クラスター酵素の優れた機能モデル構築の提案は、新しい人工酵素創製に向けた足がかりと期待される。 本研究者は、課題研究を通じて、メタロチオネインとタンパク質マトリクスとして用いたニトロゲナーゼの機能モデルの構築を実施してきた。具体的には、メタロチオネインのα鎖と鉄イオンとの複合体を合成し、ヒドラジン等の還元反応を追跡した。その成果は、J.Inorg.Biochem.に報告し、高い評価を得た。さらに、平行して、鉄-硫黄クラスターからなりたつヒドロゲナーゼにも着目し、その機能モデルの構築にも挑戦した。こちらは、ヘムを除去したチトクロムcをタンパク質マトリクスとして、そこに鉄2核カルボニル錯体を挿入し、タンパク質中のシステインを配位子とする新しいタンパク質複合体を構築した。この複合体は、光触媒としてのルテニウム錯体共存下、光照射により、プロトンを水素に還元する活性を有することが明らかとなり、水素発生系の構築を達成した。本成果はChem.Commun.の中表紙にも掲載され、大きく評価された。本系では、条件の吟味により、さらに効率よい水素発生触媒として機能するものと期待される。
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