研究概要 |
走査型陽電子励起オージェ電子分光法と低速陽電子線回折法の開発,およびその有用性の実証を明らかにすることを目的とし。平成22年度は手法開発を中心に下記の成果をあげた。 (1)陽電子ビーム強度の向上 再減速材Ni(100)薄膜を原子状水素処理後に大気に取り出さずに,真空環境下のままで水素処理・使用可能な機構を真空チャンバー内に設置し,15%以上というより高い変換効率を実現した。 (2)低エネルギー(1keV以下)での陽電子加速と集束 陽電子消滅励起の場合,クーロン的な内殻電子の励起でないため電子励起のような数keVのエネルギーではなく,逆に非常に低加速で入射して試料表面に局在する陽電子数を多くすることが重要である。そこで,陽電子エネルギーを低エネルギー(数百eV以下)条件下で,ビーム集束できるように改造を行なった。エネルギーが1keV以下の場合,磁界レンズで集束させるよりも静電レンズでの集束が適していることからアインツェルレンズを設置した。 (3)試料から発生した電子・陽電子の分光検出系 試料上流側にセンターホール付マイクロチャネルプレート(MCP)および阻止電場用グリッドを設置し,表面から発生する数eVから数百eVの電子の分光を可能とした。 以上の成果をあげたが,本質的な一次陽電子ビーム強度に問題があることも明らかになった。そこで本装置を高エネルギー加速器研究機構の低速陽電子ビームラインに設置し,本手法の有用性を実証することをH23年度に実施したい。そこでのビーム強度は放射性同位元素を用いた場合よりも2から3桁ほど向上する。
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