研究概要 |
本研究では白金錯体がDNAと複合体を形成した場合,主に立体障害によって白金錯体の電極上での還元速度,すなわち白金微粒子の析出速度が低下し,その結果,得られる白金微粒子修飾電極のプロトン還元電流が低下することを利用してDNAの測定を行っている。白金微粒子の触媒作用に基づくプロトン還元電流は白金錯体の還元それ自身に基づき流れる電流よりはるかに大きいから,電流変化によるDNA測定の高感度化が期待できることになる。 特定の塩基配列を持つターゲットDNAの測定に際しては,それと相補的な塩基配列を持つプローブDNAを添加して二本鎖が形成されたときのみ複合体形成が起こる白金錯体を利用する必要がある。本年度は文献検索および昨年度:の検討の結果,この目的に合致すると予測されるクロロ(2,2':6'2"-テルピリジン)白金(II)錯体を利用して研究を行った。pH7のリン酸緩衝液中で,この錯体はグラッシーカーボン(GC)電極上で-1.0V(vs.Ag/AgCl,以下同じ)付近で還元され、その結果,白金微粒子が析出したGC電極は-1.2V付近で顕著なプロトン還元電流を与えた。-1.2Vに電位を設定して電流測定を行った場合,電流は白金の析出に伴い経時的に増加した。この増加速度は一本鎖DNAを添加した場合には変化が無く,二本鎖DNAを加えた場合に低下した。すなわち,本錯体が二本鎖DNAのみに選択的に付加して,二本鎖の選択的な検出に利用し得ることが示された。ターゲットDNAに相補的な塩基配列を持つプローブDNAを加えて二本鎖を形成させた場合,ターゲットDNA濃度に依存してプロトン還元電流増加の速度は低下し,期待通りターゲットDNAの定量に本法が適用できることが示された。現状では20merのモデルターゲットDNAを用いた場合,その検出下限濃度は数nM(1.5ng/mL程度)であるが,測定系の改良により2オーダー以上の下限濃度の低下が見込まれている。
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