本研究は、混合原子価ポリオキソメタレート(POM)クラスターに注目し、クラスター内部にのみ存在する自由電子の秩序-無秩序転移を利用し、電子移動型の超高速応答性の誘電体を開発する事を目的とする。ケギン型の[PMo_<12>O_<40>]^<4->から巨大{Mo_<154>}リング構造まで、多様なサイズのクラスターが形成する非局在電子の規則ナノ構造(結晶)を、電子のOrder-Disorder転移とカップリングした高速な双極子反転の場として利用する可能性を探索する。 クラスター内部で電子の局在-非局在相転移が存在する一電子還元型の[PMo_<12>O_<40>]^<4->結晶として、(p-phenylenediammonium^<2+>)_2(crown ethers)_4[PMo_<12>O_<40>]^<4->および(o-aminoanilinium^+)(crown ethers)[PMo_<12>O_<40>]結晶を作製した。これらの結晶構造に関する系統的な評価を試み、さらに磁化率の温度依存性の評価を試みた。磁化率では、両錯体共にクラスター内に独立したスピンが存在することが判明し、電子スピン共鳴の温度依存性から、クラスター内に存在するS=1/2スピンの局在-非局在転移の存在が確認された。さらに、S=1/2スピンに由来するシグナルの線幅の温度依存性から、両錯体ともに~60Kでスピンの局在-非局在転移が生じることが判明した。本年度は、10kHz~1GHz領域の誘電率測定のためのRFインピーダンスアナライザーを用いた評価システムを構築した。室温における測定では、有効な測定結果を得るには至らなかった。電子スピン共鳴の結果を考えると100K以下の低温領域での測定が必要であり、引き続き低温用のクライオスタットへの測定システムの導入を検討している。また、二重波法による分極-電場ヒステリシス応答を評価するシステム、ソフトウエアーを含めてほぼ完成した。現在、対応可能な測定周波数が約10kHzが上限となっており、これは交流電圧の増幅を行うバイポーラ電源の性能に依存する。そこで、高周波測定が可能な強誘電体テスターを用いた測定システムを構築している。
|