山中先生の画期的な研究により、たった4つの遺伝子を体細胞へ導入するだけで、多分化能を有するiPS細胞の作製が可能となった。これにより、患者本人の細胞から必要な組織あるいは臓器を再生し治療に用いるという夢の医療技術開発への道が開かれた。しかしながら、iPS細胞の作製効率は1%未満と低く、この技術の実用化のネックとなっている。当然のことながら、体細胞め分化した状態を維持するメカニズムが存在するからである。最近山中らにより、ガン抑制遺伝子のp53をノックアウトすると、4つの遺伝子の体細胞への導入によるiPS作製効率が20%くらいまで上昇することが報告された。しかしながら、p53遺伝子をノックアウトすると恒常的にがん抑制遺伝子であるp53が発現されなくなり、そのためガン化しやすくなり、安全性で問題となる。そこで、本研究では、従来の作製効率をさらに上昇させるために、新たな手法を開発することを目的とする。昨年度選んだ3つのサイトにさらに1つ追加し、それぞれのサイトを標的とする4種類の分子のもとを合成し、さらに精製した。それらを個別に動物細胞に導入し、その中で最も標的の機能を調節する分子を分子生物化学的な手法を用いて同定した。さらに、この分子の機能を高めたものを作製し、複数の精製法を組み合わせて純化することができた。この分子を用いて、細胞内の標的の機能を調節することができた。現在、用いる分子の量や導入条件を最適化しているところである。
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