研究概要 |
夜間は発光型,昼間はメモリー性を有する反射(非発光)型を選択できるデュアルモードディスプレイ(DMD)は,視認性,省エネルギー的にも有利であり,その実現が期待されている。本研究では,素子駆動方式として交流と直流を使い分け,単一のセルでありながらも,発光(交流電気化学発光:AC-ECL)と発色(直流電気化学発色,エレクトロクロミズム:EC)を選択的に発現できる全く新しいタイプのデュアルモードディスプレイ(DMD)の開発基礎研究を行った。 平成22年度の知見から,一対の電極の一方にマゼンタ系の発色を示すテレフタル酸誘導体EC材料を,またもう一方にAC-ECLを示すRu錯体を修飾した電極系を用いて簡単なDMD素子を作成した。直流4Vを印加することで,テレフタル酸誘導体の還元に基づく発色が認められ,また,交流50Hz,±4Vの矩形波をセルに印加した場合にはRu錯体層からの明確な発光が認められた。DMDが設計どおり機能することを世界で初めて明らかにした。そこで,駆動電圧のさらなる低下と反射型表示における表示特性の向上を目的として,ECを示す導電性高分子であるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)をフタル酸エステル誘導体の代わりに用いて素子を作成した。この素子にPEDOT側に直流-1.0V印加することでセルの黄色から黒への発色が認められており,それに伴う消色は+1.5V近傍にて認められた。実質的なセルの駆動電圧は1.0V程度と,フタル酸エステル誘導体を用いた系(3.0V以上)よりも大幅に低下できることが明らかとなった。また,発光表示においても,フタル酸エステル誘導体の系では約2.8VからRu錯体の交流ECLが観測されたものの、PEDOT修飾電極を用いたDMD素子では約1.8VからECLが得られ、駆動電圧が大幅に低下した。これは、PEDOTの酸化還元電位が低いため、ITO電極上のRu錯体の酸化還元が促されたためと考えられる。また,一方で実用化を目指し,デモ用サイネージ素子を作成した。これらの結果に関し,平成23年度千葉大学優秀発明表彰が与えられ,またDMDに関する記事が日経産業新聞2012年2月7日朝刊に掲載された。
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